音韻[013]___
「カ」について
◇「カ行音」
人類の言語音は、先ず母音とk音を中心とする子音から始まったと思われます。猿類の鳴き声がヒト語の祖、そう考える事に無理があるでしょうか。
カ キ ク ケ コ 《直音》
キァ キィ キウ キエ キオ 〈イ拗音〉
クァ クィ クゥ クェ クォ 〈ウ拗音〉
ンカ ンキ ンク ンケ ンコ 〈予唸音・ン〉
*「カ」の転化
人が発する声音は色々な音に移ります。カの音には直音のカ以外に、拗音も使われていたようです。カはキァ(キャ)とクァ(クワ)がありますが、ここから更に移ります。
・「キァ」
カ→キァ→キァウ→キォウ(キョウ)
チァウ(チャウ)→チォウ(チョウ)
イァウ(ヤゥ)→ヨゥ、ヒァウ(ヒョウ)
チゥ→チオ→ツォ(ト)
・「クァ」
カ→クァ→ファ(ハ)→ブァ(バ)→ムァ(マ)
↓ プァ(パ)
ウァ(ワ)→ヴァ(バ)
カ→クァイ(カイ)→ファイ(ハイ)
カ→タ→タン(ダン)→トオ(ドオ)
※カからタに移るのは様々な語を見ていく中で、間違いの無いところですが、正直に言ってカ(ka)からタ(ta)への変遷ルートは、はっきりしません。(※ クア→ ツア→タ?かも)
・「カ」が元の音字例 ( ※ 青字は和語 )
クァ(カ)・加、迦、何、香、鹿、
キァウ(キョヨウ)・京、香、今日、
チァウ(チョウ)・長、蝶、諜、
ヒァウ(ヒョウ)・表、平、瓢、
イァウ(ヨウ)・用、葉、世、
タウ(トウ)・島、遠、 ダウ(ドウ)・堂、動、
ファ(ハ)・波、婆、葉、
バ(ブア)・婆、場、 マ(ムア)・間、麻、真、
・「今日〔キョウ〕」という字音
太陽を表わす日はキであり、ここから転じた「ヒ」の音になりますが、dayの意の日は通常「カ」の音を使う。二日〔フツカ〕、三日〔ミッカ〕のカですね。
但し、本日をいう場合のカは、カ→キァ→キアウと転じた音で表わし、表記は日の前に今を付けた「今日」と書き慣わします。
つまり、「今日」と書いてキョウと読む謂れは、日を表わすカの転化形・キャウ(転じてキョウ)の音に、意味を示す「今」の字を乗せただけの事です。
・「カ」から「ハ」へ
ハの音が含まれる言葉は沢山ありますが、その多くがカからの転化です。ハ(葉・波・刃・歯など)、ハラ(原・腹など)のハは、間違いなく元はカでした。
但し、カ(ka)が直にハ(ha)とはなりません。先ず、カがクァと発音され、ク(ku)がフ(phu)に変わる事によって、クァ(kwa)→ファ(pha)、クィ→フィ(ヒ)…などと移ります。
後年、日本人はフア(pha)の発音を捨て、全てハ(ha)の音へと移って行く事になります。
・奈良公園に鹿がいる理由
奈良公園の東部にある御蓋山〔ミカサヤマ〕(春日山)の麓に春日大社があります。
神様(武神)が鹿嶋(常陸国という)から御蓋山へお越しになる時、白鹿にお乗りになって来られたという。
なぜ鹿なのか。
それはカツ・カシマ(勢力を持った地域)の音に鹿ツ嶋(嶋の字は一字でカシマ)を充てたから。カの音に鹿の字が使われている、ただそれだけの理由でしょう。
- 鹿は元々「カ」と呼ばれていた。この動物は雌雄がはっきりしている。角が有る方をヲツカ、角が無い方をメツカという。これがヲスカ・メスカ→ヲシカ・メシカと発音された後、ヲとメが略されシカという語がこの種の固有名(総称)となる。
何れにしろ、それ以来鹿は神様の使いとして大切に扱われるようになりました。
もう少し正確に言うと、積極的に保護をしたという訳ではなく、単に鹿に対して危害は加えないという程度だったでしょう。それは現在でも同じと思われます。
鹿にとってはそれだけで充分だったでしょう。人間は自分たちに悪さをしない。山にいると外敵に怯えなくてはならない。しかし、里におりてくれば外敵は人を恐れてやって来ないのだから。
そして、千数百年の時をかけて今の姿(奈良公園の鹿)になった。
*「キ」の転化
キ(ki)は人類語の基本音と思われますが、様々な音(イ.シ.チ.ニ.ヒ.ミ、といった五十音図に於けるイ段の全て)に変わる事があり、現代の言葉に繋がっています。
・「キ」
キ→ チ→ ヂ→ ニ→ リ
クイ(キ)→ フイ(ヒ)→ ブイ(ビ)→ ムイ(ミ)
・「キオ」
キ→キォ → クォ(コ)→ウオ(ヲ)
・「キ」が元の音字例
コの音はカからもキからも移って来るので、少々紛らわしい音です。
チ・知.智.遲.千、 ヂ・遲、 ズ・受、
ヒ・比.梭.日、 コ・クオ・古.子.児.兒、
ヲ・男.尾.袁、※ オではなくヲ(ウオ)の発音になる。
▽ちなみに、今更ですが…
拗音の 正しい 書き方は、キャ・キュ・キョ、のように小さい「ャ・ュ・ョ」を使いますが、ア行音で示したように「ya」は「ia」と同じです。すると「k・ia」はキャですが、「ki・a」はキァになりますが、ここでは「キァ」を使うこととします。
※通常の表記である「キャ」を否定するものでは決してありません。ただ、ここでは音の変遷を分かりやすくするため、尾音はヤ.ユ.ヨではなく、敢えて母音(ア.ウ.オ)を使うだけです。(但し、アルファベットで書く場合は、kya、kyu、kyo、と「y」を用いる事とします。)