「マツキ」

音韻[010]___

「マンザイ
 漫才という芸能があります。現在は、しゃべくり漫才コント漫才、などと呼ばれます。また音曲漫才という分野もありますね。

近代漫才の始まりは、しゃべくり漫才であり、横山エンタツ花菱アチャコのコンビが始祖です。このお二人が背広にネクタイという出〔いで〕立ちで漫才革命を起こします。

それはそうと、この芸能をなぜマンザイというのでしょうか? 現在の表記は漫才ですが、元は万歳(萬歳)だったところを見ると、何かオメデタイ事だったのでしょうね。

 

◇「言祝の儀〔コトホギのギ〕
 プロの笑芸人など存在しながった時代、ですから随分と昔です。宮廷では神職(中臣系の人)が、節目ごとに大王、王家、国家の繁栄が、永遠に続くという内容の祝詞〔のりと〕を唱える行事がありました。

一般庶民の中でも、年末年始や事始めの時期になると、「厄〔やく〕、祓いましょう」という口上を唱えながら、家々の門〔かど〕に立って縁起の良い言葉を並べて祝儀(金銭)を受ける、といった人達が、少なくとも18世紀の頃には存在していました。このような風習が、芸能としての原点に在ったのでしょう。

*これが一つの芸として始まった頃は萬歳と書きました。二人の人(太夫〔タユウ〕と才蔵〔サイゾウ〕)が、大道芸人風の衣装をまとったり、紋付袴(正装)姿に身をやつし、というのが定型でした。

演じるのは歌舞音曲と共にメデタイ台詞や験〔ゲン〕を祝う言葉並べて、人々の気持ちをポジティブにする、という芸事でした。

そんな雰囲気を残していた最後の萬歳師といえば、砂川捨丸さんですね。
「萬歳のぉー、骨董品でしてねぇ」
と言って、鼓をポン! いつもこのセリフから始まります。ほぼ絶滅決定種のような位置付けで、昭和40年代のころまで老齢ながら活動されてました。

 

 

「萬歳」という言葉
 萬歳(万才)という字をそのまま読めば「マンサイ」です。また「マンザイ」や「バンザイ」(マが濁音・バになる)とも読みます。

他にも、マントシなどにもなります。この「万歳」という語は東アジア一帯で使われていますが、元は中国語なのだそうです。

 

*「辞書類の説明」によると、万歳は読んで字の如く、一万年を意味するのだそうです。そこから縁起の良い言葉として、使われるようになったと説明しています。

  • よろずよ。万年。
  • 古、酒を飲めば必ず寿を上り、慶を称して万歳という。上下通用して慶賀の辞としたが、のちには酒を飲まなくても、めでたい時には叫ぶようになった。初めは一私人にも用いていたものが、唐代からは主として天子に限られるようになった。
  • いつまでも長寿。
  • 祝すべき。めでたい。→ 万歳。
    大漢和辞典

 

  • 元々は中国に於て使用される言葉で「千秋万歳」の後半を取ったもの。 万歳は一万年で皇帝の寿命を示す言葉であり、本来皇帝に対して以外では使わなかった。
  • 「万歳」はその字の通り「万の歳」で、「一万年」であり「長い年月」という意味だった。
  • この言葉は中国の皇帝に対してのみ使われた言葉で、最初に使われたのは不老不死を願った秦の始皇帝(紀元前259~210年)だと言われている。
    ウィキペディア

 

*総じて、万歳を 万年や 一万年 の意としていますね。字義をそのまま鵜呑みにした解釈となっています。まるで八百萬神〔ヤオヨロズの カミ〕を「800万柱の神様」と言っているのと変わりません。

 

 

「マツキ」という音
 マツキという日本語があります。魂の寿命、即ち永遠の命を意味する言葉です。それにより、マツキから、→マスイ→バンザイと転じた言葉は、最大級の祝いの言葉として、色々な場面で用いられる様になります。

 ○マツキ→マン スイ→マンサイ(万歳)
          →バンザイ

 ○マツキ→マッツキ→マツタイ(末代)
          →マヅタキ(めでたい)

 ○タツ・マツキ→タ・マスキ→タマスイ(魂)

*タマシイ(魂)とは、タツ・マツキが原音であり、タマスイ→タマシイと移った語。玉敷〔タマシキ〕という言葉も音(タ・マツキ)を貰っていると思われます。

接頭辞の「タ」は善いものに付けられる音です。スケ→タ・スケ(助)、カラ→タ・カラ(宝)、ミ→タ・ミ(民)、メツモノ→タ・メツモノなどのタです。
※○タツのツは省き文字。タ・メツ・モノ(生きていく上で欠くべからざるもの)は、メシモノ(衣食)の古語。一つは、タメツモノ→たべもの、と移る語。飯〔メシ〕。また一つは、お召物〔メシモノ〕(着物)などのメシ。

*マツキは「めでたい」という語の語源でもあります。また「萬寿院〔マンジュイン〕」といった名称の元ともなります。マツキのそれぞれの音が膨らんで、マツキ→マ・ヅ・イ→マ・ジュ・イ、またバンヅイン、などと移ります。

 

「マツキ」という日本語
 能舞台などの背景には、枝振りが立派な松の絵が描かれています。日本画の題材としても松は常連です。日本人は松の木に特別な思いを待ってます。何をそんなに好むのか。長寿だから? 確かに松は長生きの樹木ですね。

だけど、決定的な理由は其の名が「松木〔マツのキ〕」だからではないでしょうか。或いは、長生きだからマツキの名になったのかも知れません。

〔いず〕れにしても、マツキという言葉を先人たちは慶祝の語として重んじた、その事は間違いありません。

そして、マツキは日本語です。その歴史は少なくとも倭建命の時代には存在してます。(実際はもっと古いでしょう)

マツキがマツキになり、この音に萬歳の字が充てられる。これが元となって、マンザイ、バンザイ、といった言葉ができる、と考えるのが自然ではないでしょうか。これをどう考えますか?

 

◇中国語の萬歳の始まりは何でしょう。永遠を意味する語として萬歳(万年)と表現した、それがホントに語源なんでしょうか。

それとも漢族語にマツキという言葉、また、その類似音を持つ言葉があるのでしょうか?

漢字=中国語、漢字で書かれたものは全て漢族語、という信仰…、それに依る条件反射的思考…、かも知れません。