「五十音図」に属する音・1

音韻[012]___

◇「音の種類」

日本語の基本的な音数は、清音(純音)を仮名字で、四十八字や四十七字(「ン」を含まず)で表わす時代がありました。これはヤ行音がヤユ(エ)ヨ、ワ行音がワヰヱヲ、という音数だった事に依ります。(※音韻[005][006]参照)

現在は、ヤ行がヤユヨ、ワ行がワヲ、これに「ン」を加えた四十六音となっていますね。

但し今は、ヲとオが微妙になっています。表記時に於いては書き分けが為されますが、発音はほぼ同じ音になっている様に思います。ですから、音数は事実上四十五音かも知れません。

その他に、濁音(ガ.ザ.ダ.バの各行音)や半濁音(パ行音)なども有り、これらを合わせると70個を越える程度の数になります。

 

◇「ヤ」「ワ」

五十音図に於いて、ヤ行とワ行は独立した行音としての場所を与えられています。しかし、音の構造を分解して見ると、ヤ行音はイ+ア、ワ行音はウ+アで作られている事が分かる。よって、ヤ行・ワ行はア行音の属音という捉え方もできます。

○   イ  ウ  エ  オ   〈直音〉

○ ア  イ   ウ   エ      〈イ拗音・1〉
  イァ    イゥ   イェ  イォ    〈イ拗音・2〉  () ー ()(エ)() 〈ヤ行音〉

○ ア  イ   ウ エ        〈ウ拗音・1〉
  ウァ  ウィ  ウゥ ウェ  ウォ     〈ウ拗音・2
 ()()  ー  ()()    〈ワ行音〉

 

◇「同音異種

イ拗音とウ拗音には、更にそれぞれに二つの別があります。例えば、「ヤ」を作るイとアの、どちらが基音になるかに因るものです。

〈ヤの音〉
「ィ」基音・アの頭に予唸音・イが乗った音。
ァ」基音・イに尾母音・アが付着した音。

〈ワの音〉
「ゥ」基音・アの頭に予唸音・ウが乗った音。
ァ」基音・ウに尾母音・アが付着した音。

 

*「ア」が「ヤ」になる例
八雲クモ〕は ィアクモ。
アツ・カムツキが、ィアツ・クモツキ→ヤツ・クモ(八ツ・雲)と転じた音です。ここでのアツは「多い」、カムツキは「戦闘員」の意味で使う。よって「ヤツ・クモ」とは多くの武人→戦闘集団(軍隊)の意。

八代シロ、ヤツシロ〕は ィアシロ。
元はアキツ。ア→ィア(ヤ)になり、キツ→シロと移る。アキツ→ヤシロと転じた音に八代の字が充てられた。またアがアツと膨らんでアツキツ→ヤツシロにもなる。

〕はキァ
矢はヤブキといった。道具を表す語であるカツキのカがキァ(拗音)と発音され、ツが→フ→ブと転じ、ツキがキァフキ→イァブキになる。ここからブキの音が落ちてヤのみで呼ぶようになる。

○家〔〕はイァ
元の音はカであり、これがキァ→イァ(ヤ)と転じた音。カが家の字の音読みだからといって、漢語由来の語とは限りません。カツキがヤシキと転じて、ヤだけに短縮したとも考えられます。

 

 

*「ア」が「ワ」になる例
例えば「場合」という語をそのまま読めばバ・アイですが、人はしばしばバイと発音する。バ(ba)の母音(a)と、後ろに来るアイのアが繋がってしまい、バーイと音が流れてしまう。これに心地悪さを感じるのでしょう。

するとアイのアの音を残そうという意識が働き、アを強めるための音・ウを頭に付けます。その結果、バ ゥアイ(バイ)となります。

予唸音がイになると、バ ィアイ(バイ)にもなりますが、この音はあまり一般的では有りません。ただ、ごく稀にふざけて使う人はいます。

 

*「カワイイ」という語
十代・二十代の女子が一日のうちに、800回は発しているのではないかと思われる言葉に「カワイイ」というのがあります。主〔おも〕に視覚的なものについて肯定的な表現をする際、彼女達が使う唯一の単語です。

語彙力の問題なのか、耳目センサーが好感反応を示した時に反射的に発する生理現象音なのか、はたまた脳に染み付いた単なる口癖なのか。

そんな事はともかくも…、

カワイイという語の素性についてです。元はカ・アイ(「可愛」の字を充てる)ですね。これもまたアの頭に予唸音ウが付き、カ ゥアイ(カイ)となった音です。

 

*「祖音」
カワイイの原音は恐らく、カツ・アキラツキという語だと思われます。まず、キツキ(人の意)という語があり、頭のキがキラと膨らんでキラツキという語ができます。

キラツキはイラツコ(郎子)やイラツメ(郎女)などの言葉の元となる音です。意味は、キツキ(人)の中でも「優れた人」「高品位な人」などを表わす言葉です。今風にいうと紳士淑女といったところか。※「キリスト」という名もキラツキが原音かも知れません。

よって、キラキラしたツキ(の者)と解釈しても差し支えはないでしょう。この音に大(とても、すこぶる)を意味するアが乗り、キラツキになる。

 キツキ→キラツキ→アキラツキ。

このうち、キラツがイラス(先のキがイに、ツがスに転ずる。)と音転して、アイラスキ(愛らしき)という語になる。

更にこの語の頭に、より強調度が強い褒称の接頭辞・カツが付いて、アイラスキになる。カツのツは付属音なので省かれ、カ・アイラスキが原音となります。

カツ・アキラツキ → カ・ゥアイラツキ。
         カ  ワ  イラスキ。
         カ  ワ  イラシイ。
         カ  ワ  イ  イ。

アイが ゥアイ(ワイ)に成り、キがイに転じてカワイラシイ、ここからラシが略され「カワイ(ラシ)イ」という語がでたと思われます。

よって、カワイイはアイラシキ(愛らしき)の最上級「カツ・アイラシキ」が語源ということです。今とは意味合いが違っていました。

だからといって、現代の使い方をどうこう言うつもりは全くありません。カワイイは一つの単語として独自の意味や役割を持ち、定着しているのですから。